各種取組の紹介

活力ある漁村づくりの事例

カツオ学会の設立、広域の漁港ネットワーク(高知県黒潮町 他)
【類型4:その他(広域ネットワーク)】

◆学会設立の背景

 カツオは古来、日本人の食と文化に大きな影響を与えてきた。「初夏に初ガツオ、秋には戻りガツオ」、を楽しむことは、古来より日本の豊かな自然と食文化であった。
 南は沖縄から北は気仙沼まで、黒潮に乗って日本列島に毎年やってくるカツオを目当てに追いかけて太平洋側の漁港に属する多くの一本釣り漁船などが、大漁を目指してカツオの群れ(ナブラ)を追いかける。
 ところが、多くの漁港・漁師から「カツオが、これまでのように獲れなくなってきている・・・」という直感的な不安の声が発信されてきたため、これをきっかけにカツオ漁業に関する様々な切り口で、平成21年10月、産・学・官の枠組みと地域を超えて、カツオにゆかりのある全国の人たちが集い「第1回カツオフォーラム」が高知県黒潮町で開催された。
 これに続き、平成23年1月に、黒潮町において「第2回カツオフォーラム」の開催に合わせ、カツオ学会の設立が呼び掛けられ、関連する大学、行政(10件16町村)を中心にカツオ学会が設立された。

◆取組の概要

シンポジウムの様子(黒潮町)

シンポジウムは、①カツオ資源の枯渇問題に対する学術的研究、②食資源としてのカツオの可能性、③カツオ漁業と地域文化・活性化 という3つのテーマによって議論が深められた。
 その結果、カツオに関する様々な課題や可能性が明らかになり、「黒潮一番地宣言」が発表された。その宣言で確認されたように、私達にとって、これまで身近な食材であったカツオ資源の実態、地球規模でみて回遊魚であるカツオの生態はどうなっているのか、そして、カツオに関わる漁撈、加工、流通、消費、文化がどのような現状にあるのか、また、カツオの高付加価値化や有効な利用方法にはどのような可能性があるのかなど、今後、さらに継続した調査・研究と課題への挑戦が必要となっている。
 またカツオ資源の実態を把握するためには、海洋資源調査機関のデータのみならず、日々海の上でカツオを追っている漁業者による観察情報も、特に貴重な指標として認識する必要がある。そして、有効活用によってカツオ資源の可能性を高めるためには、産業界や地域の諸団体の積極的な参画を得ることが大切であり、カツオに関わる産業の振興や地域の振興に資することが期待されるところである。
 そこで、将来にわたり、日本人とカツオとの「上手な付き合い方」を探るために、カツオ産業の盛んな地域と産・学・官の関係者、及び、カツオに興味がある人々が集い、各種の情報交換をはじめ、調査・研究を継続して行う機会として、平成23年1月に日本カツオ学会が設立された。
 今後の活動については、カツオに関心を持つあらゆる人々がカツオについて総合的に考える機会を提供するために「カツオ・フォーラム2011 in 枕崎(2012年度は宮古島市を予定)」の開催、カツオ・シンポジウムの開催、会報誌の発行などを計画している。

◆発起人
  • 自治体(五十音順)
    沖縄県(宮古島市、本部町)、鹿児島県(枕崎市)、宮崎県(日南市)、愛媛県(愛南町)、高知県(黒潮町、土佐清水市、中土佐町、奈半利町)、静岡県(御前崎市、焼津市)、三重県(尾鷲市、勝浦市、志摩市)、茨城県(ひたちなか市)、宮城県(気仙沼市)
  • 学術関係者(五十音順、敬称略)
    海の博物館:石原義剛、沖縄大学:上田不二夫、高知大学:受田浩之、元・東京水産大学:大海原宏、長崎大学:片岡千賀之、リアス・アーク美術館:川島秀一、元・東京水産大学:竹内正一、茨城大学:ニ平 章、鹿児島大学:野呂忠秀、鹿児島大学:不破 茂、愛媛大学:若林良和、東京海洋大学:和田 俊
◆取り組みの効果

1.産・官・学によるカツオ資源保護育成に対する連携
 学術的アプローチでカツオ資源の減少を研究する学術研究者と、実際に漁を行う大型一本釣りカツオ漁船の船長らによる、カツオ資源とカツオ漁業に関する討議により、産学の垣根を越えた海洋資源保全に対する現実的な議論が深まる機会が創出された。

2. カツオの食材としての可能性の追求
 栄養学や食育の分野から、またフードビジネスの立場から、カツオという食材の持つポテンシャルの高さを明らかにする機会が持たれた。

3.カツオを食する文化と、カツオ産業と地域活性化の意義の明確化
 全国のカツオ水揚げ漁港では、鰹節やなまり節、たたきなど様々な形でカツオ職種送る生活文化、加工の技術などを地域ごとに培ってきた。これらカツオに関する地域文化を、資源として活用していくチャンスについて考える契機を創出した。

◆カツオ・シンポジウム2010の開催概要
テーマ
パネリスト
討議内容
第1部
「カツオの生態と資源を考える」 二平明=コーディネーター
(茨城大学総合科学研究所)
小倉未基(水産総合研究センター)
竹内正一(元・東京海洋大教授)
上牧英雄(第88正丸)
明神正一(第123佐賀明神丸)
地球規模のカツオの回遊状況と資源数の現状報告、繁殖地域・太平洋南洋での資源保全型漁業の実現可能性(国際連携)
第2部
「カツオの利用と流通を考える」 受田浩之=コーディネーター
(高知大学副学長)
高瀬美和子(水産庁遠洋課)
久塚智明(FBTプラニング代表)
片岡千賀之(長崎大学教授)
大西勝也(黒潮町長)
カツオの有用成分の活用による食材としてのポテンシャルと、フードビジネスの中での流通・加工の方向性を模索
第3部
「カツオ文化と地域活性化を考える」 若林良和=コーディネーター
(愛媛大学教授、カツオ学会長)
川島修一(リアス・アーク美術館館長)
下地敏彦(宮古島市長)
南田敏明(枕崎市水産課)
境文子(高知県漁協女性部長)
カツオを食してきた地域の文化、カツオをシンボルとした地位活性化の在り方について歴史性や地域ごとの取り組みから討論。
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