各種取組の紹介

漁村地域への移住・定住の事例

漁業者の高齢化や後継者不足により地域の水産業の活力低下が各所で指摘されています。地域の人口を維持し、漁業の後継者の確保をはかるための取組として、全国の漁村地域では漁業だけでない多様な働き方が見られます。漁村地域での就業や産業創造の事例、また地域での漁業者育成や移住者の誘致の取組についても整理していますので、ご参考下さい。

(1)漁村地域での就業

①新規就漁、サラリーマン漁師の可能性

漁業を新しく始めるにも、個人漁師の場合は漁船、漁場、係留場など準備段階で資金面のハードルが高いことが課題としてあげられます。また、収獲・収入も自然条件や経済状況によって非常に不安定であり、技術の習得にも長い時間を有するため個人漁師として新規就業することは容易ではありません。しかし、法人格を持った定置網や養殖の組織への就職であれば、就業における初期投資も必要なく収入もある程度保障され、技術の習得に関しては周りに職人がいるためそこから学ぶことも可能となります。

千葉県鴨川市 鴨川市漁業協同組合
経緯と概要
サーファー移住者が漁業に従事
鴨川市漁協の定置部には現在6名ほどのサーファー漁師が就労している。彼等は最も遠いところで大阪から、その他千葉市、松戸市、静岡などからのIターン者で、市内のアパートやマンションに居住し働いている。その中には家庭を持っている人もおり、漁協で働きながら家族を養っている。
最初にサーファーがIターン者として漁協に勤めだしたのはおよそ10年前、そこから少しずつ鴨川の海を求めてサーファーが移住し、漁業に従事するようになってきた。
仕事が休みのときもちろん、仕事がある日も早く終われば夕方から海へ出てサーフィンをすることもしばしばある。仕事とプライベート、更には家庭も両立しながら趣味と実益を兼ねたライフスタイルを形成している。
鴨川市の漁業
安定した漁業経営
鴨川市漁業協同組合は平成9年に千葉県の「一市町村一漁協」構想を受け、鴨川市漁業協同組合と江見漁業協同組合が合併し設立された。漁獲量の激減や魚価の低迷などで多くの水産関係者が苦しむ中、当組合の水産業の経営は比較的安定しており、特に巻網漁や定置網漁が盛んである。
漁業定住者に対する支援など
自ら定住の道を切り開く
鴨川市で行っている定住促進施策は主に農業者向けにプログラムされている。漁業に従事するサーファーたちは行政から定住に関する支援に頼らず、人が人を呼び自ら生活の基盤を築き移住する者が多い。
※備考
巻網船団にも多くのサーファーが従事しており、どちらかというとローカルの若者が多い。海が時化るときは漁に出れず休みとなるが、サーファーにとっては波が大きく絶好のサーフィン日和となる。漁協事務所に隣接する2階建ての漁民アパートに若者たちが生活している。
石川県七尾市 鹿渡島定置
経緯と概要
社員の半分以上が20代
「天然の生簀」と呼ばれる富山湾で定置網漁を行っている民間会社「鹿渡島定置」では、15名ほどの従業員が働いており、そのうち8名が20代の若者である。それぞれ車で15分以内の場所に居を構え、何人かは家庭を持ち家族を養っている。
また、県外から漁師を目指して移住した独身の若者も2名従事しており、それぞれ東京、栃木の出身である。彼等は当社の求人募集をインターネット等で見つけ出し就職した。若者の人材育成に力を入れており、能力に応じた給料体制で年収が400万円を超える若者もいるという。民間会社としてある程度安定した給料を支給できる鹿渡島定置は漁師を目指す若者の雇用口として大きな役割を果たしている。
七尾市の漁業
振興会が市の漁業を活性化
鹿渡島定置をはじめ、富山湾を漁場とした9の定置網漁会社が加盟する「七尾・能登島定置網漁業振興会」は、七尾市の定置網漁業の振興を図ると共に、「いきいき七尾魚」の普及とブランド化を実現させることを目的に設立された。研修の実施及び各種事業への参加、また独自の事業も実施しており、加盟団体には多くの若者が就業している。
漁業定住者に対する支援など
自ら定住の道を切り開く
七尾・能登島定置網漁業振興会では、隔年で人材育成、販路開拓、消費者対策などに関する研修会やイベントを開催しており、それらが若者の就労支援として効果を発揮している。
②漁村地域の多産業連携「海業」の展開

漁村地域の活性化を図るときに漁業の振興を計画することは重要ですが、それだけでは地域全体の活性化につながりません。全国の漁村で活性化に成功している地域は、漁業だけでなく農林業など他の 第1次産業、加工・製造業の第2次産業、観光、サービスなどの第3次産業が連携し一体となって地域活性化に取り組んでおり、同時に雇用の受け皿も広がり定住の促進に貢献しています。

静岡県伊東市 NPO法人 体験活動研究会
経緯と概要
アクティビティ×健康+ダイビングショップ×漁師
伊東市で海での体験アクティビティによる観光業を営んでいるNPO法人体験活動研究会では、海でスイミングやシュノーケリングをしながらイルカと交流できるプログラムを提供している。これらのプログラムは、心と体の健康増進に効果を発揮することが研究で示されており、それを筑波大学で学んだUターン者が地元で海業として発展させている。
また、一般的にダイビングやシュノーケリングはショップ専用の船でスポットまで送迎することが多いが、当協会では敢えて自前の船を持たず、地元の漁師(傭船組合)と提携しポイントまでの移動を委託することによって、水産業の低迷に悩んでいる漁業関係者の新たな収入源となっている。海でのアクティビティが健康につながり、ダイビングショップと漁業者のパートナーシップが新たな海業の仕組みを展開している。
伊東市の漁業
安定した漁業経営
伊東市は観光地であり、別荘も多いため、移住や首都圏から二地域居住の需要も高い。移住・定住に関する特別な支援策はないが、旅館やダイビングショップなどに雇用の受け皿が有り、移住希望者の需要とマッチングしている。
漁業定住者に対する支援など
自ら定住の道を切り開く
伊東市の漁業は伊豆半島沿岸海域から伊豆七島近海に居たり、棒授網、巻網、定置網漁や一本釣り、潜水漁業など多種多様に行われている。一方で、年間600万人以上の観光客が訪れる観光地でありダイビングなど海でのレクリエーションも盛んで、伊東市漁協が運営しているショップもある。
佐渡市水津漁協
経緯と概要
佐渡の資源流通課題を克服する佐渡独自の水産加工の新・業態の開発と差別化
佐渡の魚介類は多品種少量のため、又航路流通コストが高いため、大量・低価格で市場に商品を供給することができないことから、多品種少量の水産物を加工により付加価値向上、加工による流通コスト低減をはかり、漁業の振興を目指す。
佐渡の地理的位置づけ、航路遊通コストを考慮すると、「流通単価の低い商品形態」と「高品質を維持した保存性」が重要であること、佐渡の伝統的なダシや調味料、こだわりの無農薬野菜やこしひかり、つばき油など、佐渡の特色ある食材を用いたメニューの商品化により、佐渡の気候風土に根づいたより説得力を持つものとして佐渡の食ブランド化にも役立てている。

【実施内容】
①水津漁港にてテストキッチン設置、サンプル品を作成
②各市場へのテストマーケティング(ホテルやレストランへのニーズ調査)
③市場からのフィードバック
④核となる加工調理施設のプランニング
⑤商品化デザイン
佐渡市の漁業
水産物の8割が島外出荷
佐渡で採れる水産物の8割は島外へ出荷する。特に商品価値のあるぶりやまぐろは新潟や氷見に水揚げされる。地元の漁師の意識の問題もあるが、佐渡での魚価は他に比べても低い。
漁業定住者に対する支援など
漁協と建設業とのコラボ
漁港の整備などで建設業と漁協との関係は従来から強い。建設業者の人的パワー、人脈、船の免許も持っているので連携が可能になっている。定置の権利を持つ建設業者もある。
③半農半Xの展開

農業では「半農半X」という言葉が浸透し、実際にそのようなワーキングスタイルを実践している人が増えてきています。一方で漁業における「半漁半X」という言葉はあまり耳にしませんが、収獲・収入に波のある漁業のみで生計を立てることは困難であるため、半漁半Xといったワーキングスタイルの可能性は十分に考えられます。

島根県海士町 個人
経緯と概要
ぷち農ぷち漁ぷちXで自由な暮らし
地域活性化で有名な海士町には、様々な交流事業やUIターン者の支援施策によって近年移住者が増えている。そのうちの一人は農業と漁業を個人で経営し生計をたてている。
大阪の出身で、北海道などで馬の育成に携わったり、ワーキングホリデーでニュージーランドに住んだりとふらふらした人生の後、2004年に海士町へIターンとして移住した。島でも馬を飼い、畑や稲作などに従事しながら伝統的な漁法の「かなぎ漁」を営んでいる。町の推進する交流事業のもと、島の人と交流を重ねて仲良くなる中で農地を借り、漁船を譲ってもらって現在の生業に取り組み始めた。生活するだけの収入は確保できており、将来的には農漁家民泊の経営を目指し、「ぷち農ぷち漁ぷちX」のワーキングスタイルをモットーとしている。
海士町の漁業
海士ブランドの水産商品
海士町といえば「島では常識サザエカレー」が特産加工品として有名である。他にもCASを活用したスルメイカや「春香」というブランド名を持ち築地市場でも最高値を記録する岩ガキの生産も盛んに行われており、町もこれら水産業の振興に力を入れ、漁業に従事するIターン者も増えている。
漁業定住者に対する支援など
4年間で202名、8割の定着率
海士町が積極的に定住や交流事業を促進し始めた平成17年から現在までに町に住み着いたIターン者は202名。さらにその定着率は8割。移住者に対する住居の支援に加え、数年間の漁業就労支援及び研修や起業を前提としたファンドの設立など、実践的で斬新な定住施策が大きな効果を生んでいる。
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(2)漁業就業等支援について

漁業就業に関する支援策については大きく以下の内容があります。
・漁業就業に関する相談窓口の設置
・就業に関する情報発信
・漁業就業体験の実施
・漁業に関する知識・技術習得にむけた研修の実施
・漁業就業に際しての融資等支援の実施
・漁業就業に向けた住居の提供

漁村地域に関心のある方は一定程度存在し、漁業体験、漁業研修には参加者が集まっています。しかしながら、体験や研修を経て就業につながるのはわずかであり、融資支援や就業に向けた住居の提供などの実施数は少ない状況です。
また、就業に当たっての住居の確保や生活費の助成などをあわせて実施する地域もあります。漁業就業については、県や漁協が主体で実施するところが多く、市町村が生活面での支援を行うという例が大半です。一部では市町村における就業支援も行われ、主に企業型漁業の求人の紹介が実施されています。地域への人材誘致については、地域で就業先として農業、林業とあわせ、また地域での介護サービスへの従事などの紹介も行う例がみられます。

【就業支援事例(都道府県)】
千葉県新規漁業者確保定着支援事業
  • 4泊5日短期研修 参加者10名(事業枠上限、応募者40名)
    • 東京、千葉、神奈川、茨城より参加、20代後半〜50代まで、40代が多い
    • 就業支援センターにて千葉県のブースで募集、40名の応募者を面接にて10名に絞込み
    • 漁業就業を目指す方だが、住みたいところ、就業したい漁種とはなかなかマッチしないため、その後の就業へはつながりにくい状況
  • 研修後の就業支援
    • 希望者へは6ヶ月間の研修
    • 漁業者との師弟制度、月5万円上限の補助+住居費用として上限5万円の家賃補助
    • 本年度は枠が埋まっていないが、国事業にて3名はこれから実施見込み
  • インターン
    • 県内高校生のインターンとして実施、水産関係問わず参加可能
    • 本年度22名の参加者、内3名は普通高校からの参加
    • 学校にてまとめて、近隣の受け入れ漁業者にインターン
    • 昨年は銚子高校にて10数人参加、内、2名がまき網漁船にて就業(本事業がきっかけかどうかは不明)
福井県がんばる海の担い手対策事業
  • 漁業体験 H20年度 9名参加
    • 内8名が新規就業、現在は 6名が継続中(就業前住所 県内5名 県外(愛知県)1名)
    • 定着支援貸付金でのサポートはあるが、住宅提供等のサポートは無し
  • 定着支援貸付金(無利子)
    • 総額 自宅通勤36万 一人暮らし132万(初年度60万 2,3年度36万づつ)
    • H20年度 7名が借用中
    • 上記漁業体験後の新規就業者が主な借り手
      ※漁業体験後は、福井県漁業就業者確保育成センターが雇用を計画している事業体を募集・把握しており、センターと連携して新規就業者に雇用先を提供している。
    • 事業はH22年度までの3ヵ年事業だが、H23年度以降も見直しを経て継続する予定。
【就業支援事例(市町村)】
男鹿市農林漁業後継者等奨励措置
  • 定住・生活支援(奨励措置対象者に奨励金50万円を交付する)
    • 制度はH4年度から
    • 今までに8名の漁業後継者が誕生
    • 制度は新規漁業経営者も対象にしているが、今のところは地元漁家の後継者のみが利用
    • 刺し網・はえ縄・定置網漁の後継者がいる
    • 条例を定めているため、奨励措置は半永久的に持続
    • 市としてはこれ以外の漁業者確保の施策(県外からの移住推進等)は行っていない(まずは若い漁業者の減少を食い止めるのが先)
高知県土佐清水市
  • 漁業就業者支援制度
    • H12年から実施(15万/月は今年から 昨年までは10万/月)
    • いままでに10人の漁業就業者が誕生(市内4名 市外6名)
    • 漁協が研修先(個人漁業者)とのマッチングを行う
  • 漁業就業者定住促進対策
    • 就業者に対して、その就業者に同居する扶養家族がいる場合、支援金を事業実施主体を通し交付
      (配偶者:月額3万円、子:月額1万円(1人につき))
    • 支援金交付期間は、就業した翌月又は申請の翌月から2ヵ年間
    • 就業者支援制度で新規就業する漁業者の家族が対象
    • 他に農業でも同様の支援を行っている
    • 漁業者の減少・高齢化をどうにかしたい。そのための後継者確保のために上記支援を行っている。後継者は市内・市外どちらでも歓迎
    • 両支援とも廃止の見込みはなく、これからも続けていく
三重県尾鷲市
  • 漁業体験教室
    • H11より定置網漁業、マダイ養殖の漁業体験教室実施(H14年以降は定置網漁業のみ)
    • H20は11月に4日間の体験教室を実施、就業の見込みの高い梶賀地区にて実施。
    • 参加者4名(定員12名)
    • 参加者の内2名は就業に向けた検討を行い、さらに7日間の研修を梶賀地区にて実施。
    • 体験教室後はさらに1週間の研修や、賃金が発生する半年の長期研修も用意している
      (研修先:九鬼定置漁業㈱、㈱早田大敷、梶賀大敷㈱)
    • H13年には同制度を利用して1名が新規就業
山形県鶴岡市
  • 自立のための漁業研修事業
    • 漁業後継者の育成を図るため、山形県漁協が漁業後継者等に対し漁業後継者育成資金を貸し付けした場合に、利子補給補助金を交付する。
    • H20年度研修生1人、まだ独立には至らず
    • 定置網漁船の乗組員を対象に、休業となる7・8月に実施
    • 1人乗り小型底曳網船の個人漁業者に弟子入り
    • 希望者の意気込みやその人物への外部からの評価を重視しており、また「市外から漁師希望者を募集するのは定着率が低いため、希望する方はまずは定置網船の乗組員からはじめてほしい。その上で意気込みが伝われば支援を考える。」というスタンスのため、自然と市内定置網船の乗組員が対象になる
    • もともと漁業者間の交流があるため特に希望者と受け入れ先のマッチングは行っていない
      (希望者が受け入れ先を自分で見つけた)
  • 一本釣り漁等後継者育成事業
    • 一本釣り漁等一人乗り着火船の後継者育成を図るため、山形県漁協が漁業就業を希望する者を一定期間雇用し、現漁業者の下で長期間研修させるために必要な賃金、指導謝礼等の経費に対し、補助金を交付する。
    • H21年から 1人 来春独立予定
静岡県沼津市戸田地区
  • 田舎暮らし体験
    • 2泊3日、漁業コースと農業コースの2回開催
    • 漁業については、小型船で刺し網漁の体験として、早朝から乗船し、水揚げを行う
    • 1回4〜5組、10名程度、ほとんどは熟年の夫婦、県内の方を募集
    • 体験を経て移住に至った方はまだいない。
  • 物件の紹介、仲介
    • 商工会戸田支所では地域の空き家の紹介、ホームページ、窓口にて紹介及び仲介を実施
【参考 農林業就業支援】
とっとりふるさと就農舎(鳥取市農業公社国府支所)
『とっとりふるさと就農舎』では、合併によって使われなくなった庁舎を活用し、県内外の主に都市部から就農意欲の高い若者などを積極的に受け入れている。2ヵ年長期研修事業などを通じて、円滑に就農するために必要な生産技術力や経営管理能力などを学ぶ機会を提供することで、新規就農者育成と定住促進の基盤づくりを図っている。
研修生の受入れ:平成1 9 年度、2 0 年度ともに3名の合計6 名の受入れ。
農業体験の受入れ:平成1 9 年度8人(延べ4 4 日)、2 0 年度8人(延べ2 2日)の合計1 3名(延べ7 9日)の受入れ。
株式会社米良の庄/宮崎県西米良村
主産業であった林業の衰退による村の経済活動停滞と、それに伴って予想される経営危機、農家の人手不足に対応するため、村は平成7年より人口減少を不可避なこととして受け止めた上で、交流人口の増加を図るために西米良型ワーキングホリデー制度を創設した。来村者は西米良村で休暇を過ごすだけではなく、ゆずやほおずきの栽培など季節的に人手が不足する仕事を手伝い報酬を得る。得られた報酬は公設の滞在施設の利用料などに活用され、村内に還元されている。
【参考 起業支援】
島根県海士町 商品開発研修生制度
  • 「よそ者」の発想と視点で、特産品開発やコミュニティづくりに至るまで、海士にある全ての宝の山(地域資源)にスポットをあて、商品化に挑戦する「島の助っ人」的存在を募集。
  • 採用された研修生は町の担当課に配属され、特産品開発や観光資源の掘り起こし、イベント企画などに取組む。取組む内容は自由だが契約は1年間。1年後にビジネスプランを提案することがノルマ。
  • 今日まで18 人が参加。現在3 人が勤務中。過去、研修生の卒業者で海士に定住した方は7 名いる。毎月15 万円の給与を支給(社保付)。住居は1DKを準備し家賃は1 万円。冷暖房、こたつ、冷蔵庫、掃除機、布団を完備。1年契約だが更新可能。卒業生のうち、今年は2 人が海士で起業。
  • 「島じゃ常識!さざえカレー」をはじめ、「隠岐海士のいわがき・春香」、「海士乃塩」、塩を活用した伝統料理(伝統製法自然食加工品)を復活など大ヒット商品の開発、レストランメニューの開発など成果が拡がっている。
  • 研修制度他、各種事業によりH16〜20でUターン者36人、144世帯234人のIターン者が定住。Iターンのための特別な支援制度はなく、住宅の整備、結婚や出産の祝い金を実施している。
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(3)漁村地域における居住支援について

漁村地域への定住・二地域居住にあたり、住居の確保の支援も各地で実施されています。
多くは空家情報の提供ですが、農山漁村共通して地域の住民は空き家を貸したがらない状況があります。盆正月に利用すること、めったに帰ってこない場合にも仏壇がある家を他人に貸すことに抵抗感を持つことが共通する状況となっています。
また、漁村地域においては地域外に拠点を持っていても漁業権を持ち、定期的に漁に出ることがあることから住居を手放すことができないことや、農山村に比べても地域のつながりが強く外部からの移住者が入りにくい環境にあること、地域に家を手放したことを知られたくないなどの理由にて空き家バンク制度を実施する自治体においても漁村集落の物件が非常に限られています。 以下の事例内容も踏まえると、段階的に地域コミュニティに溶け込むための交流事業や居住体験などの仕組みづくりを行うことが一つの解決策であると考えられます。

【漁村地域における事例】
沼津市戸田地区
沼津市戸田地区は戸田は伊豆半島西海岸に位置し、天然の岬は波静かな漁港として昔から漁業者の生活を支えてきた。また近年では、海水浴場として夏は多くの観光客でにぎわい、岬から眺める富士山が有名。地域には海岸通りには旅館、民宿、ペンション、食堂が軒を並べる。年々過疎化が進行しており、戸田地区の人口は、昭和35年の5913人から2008年8月1日現在3741人にまで減少している。
  • 住居の紹介・仲介
    • 戸田地区には不動産業者がなかったため、移住促進策を実施するにあたり、商工会にて免許を取得し、不動産の仲介事業を実施している。地域の方は空家であっても他人には貸したがらない(仏壇がある、盆正月には帰ってくるなどの理由により)ため、賃貸物件は少なく、売買物件が多い状況。利用者のニーズとしては賃貸物件の方が圧倒的に多いため、ミスマッチが生まれている。
    • 商工会戸田支所では地域の空き家の紹介、ホームページ、窓口にて紹介及び仲介を実施している。
    • 年間3組程度、過去4年間で20名に対して住居の仲介を行った。
    • 移り住んだ方は全員年金生活者。漁の手伝いをしている方もいるが、報償は採れた魚をもらってくる程度であり、漁業で生計を立てることは難しい。
徳島県美波町伊座利
  • 漁村留学制度による保護者と児童生徒一緒の受け入れ
    伊座利では、自然の中でたくましい体と豊かな心を育てたいという考えの保護者の方々、児童生徒に対し、広く漁村留学を呼びかけている。
    ○転入条件:親子で転入
    伊座利校に地区外の子どもたちを受け入れる漁村留学は、「子どもは親と一緒に暮らすのが一番」と、親子で転入。1〜2年の短期を含め、首都圏、関西圏、徳島県内など、全国各地からの転入生は、これまでに60人を超える。希望者は絶えないものの、受入可能な住宅がなく断ることが多い実状。
    ○留学期間:1〜2年の短期から永住まで
    ○転入までの流れ:地区・学校との話し合いが必要です
    STEP1.まずは体験入学&地域住民との面談
    転入を希望する子どもは、学校に馴染めるのかを探るため、伊座利校に体験入学をする。親は協議会(地区の子供たちも含まれる)と伊座利校の代表との話し合いに臨みます。基本的に来るものは拒まずだが、子どもを放ったらかしにするような親、地域に馴染めないような親などは転入を断ることもある。
    STEP 2.住居を紹介
    転入してきた家族には、協議会が都市部に住む地区出身者から借り受け改修した空き家などを住居として用意する。
    STEP 3.伊座利の子供になる
  • 一日漁村留学体験「おいでよ海の学校へ」により事前に体験できる仕組み
    転入の前に一日伊座利を体験するイベントとして実施。
    (実施内容)
    ○開校式 ○磯遊び、カヌー、手長エビ捕り体験、定置網体験 ★昼食はあわびカレー! ○浜の清掃 ○閉校式
    伊座利の未来を考える推進協議会ホームページより
【参考 農山村における事例】
NPO法人結まーるプラス(島根県江津市)
  • 空き家情報の提供・定住サロンによる相談
    島根県の山間部にあり、急激な過疎化・高齢化が進行し、家屋や景観の維持が難しくなっている旧桜江町で、空き家を再活用して、移住促進を図った住み替え支援制度が行なわれている。地元の信頼の厚い自治会や市役所職員が家主と交渉し、再活用できそうな空き家情報を収集、専門知識をもつ地元の不動産業者が物件に客観的な評価を下し、情報の管理・発信に秀でたN P Oが空き家情報を管理、インターネットや田舎暮らしツアー等を通じて全国の移住希望者に提供している。また、無人駅をコミュニティスペースとして再活用、UIターン者にむけた「定住サロン」を運営し、定住支援・交流促進事業を行なっている。
    20件を超える移住契約が結ばれ、ツアー参加者は延べ200人に及び、15人のIターン者が生まれた。UIターン者により地域資源を活かした新たなビジネスの開発が進められている。
色川地域振興推進委員会/和歌山県那智勝浦町
  • 改修した学校校舎を中心とした地域一体での定住者受け入れ
    那智勝浦町の山間部にある色川地域は、農林業と銅鉱山により栄えた村であったが、昭和40年頃から鉱山の閉鎖、農林業の衰退が進み、住民の高齢化、休耕田の増加や山林の管理不足に悩まされた地域である。昭和52年、有機農業を目指して移住した5世帯が「耕人舎」を設立、定住希望者等を受け入れる活動を始めた。平成7年、過疎に伴う地域崩壊の危機感もあり、町が旧校舎を改修して町立「籠ふるさと塾」を整備、地域住民が一体となった組織、色川地域振興推進委員会が塾を拠点として様々な定住促進プログラムを提供し始めた。その後も町が定住の受け皿となる町営住宅を建設するなど官民一体の取組は続き、現在では移住者が地域住民の約1 / 3を占め、少子・高齢化の緩和、消防団員等の地域活動の担い手の維持など、地域の活性化がなされている。
北海道上士幌町
  • 地域の建設業者が中心となった生活体験用モデルハウスの整備・生活体験の受け入れ
    上士幌町は豊かな自然や温泉、文化財など多様な資源に恵まれた地域であるが、過疎化が進む中で温泉宿泊客が大幅に減少するなど、新たな魅力をもつ観光地づくりと、定住の促進が課題となっている。そこで同町では定住や二地域居住を進めるため、上士幌町や北海道への移住を検討している都市住民を一定期間以上受入れ、豊富な地域資源を活かした生活体験プログラムを実施している。
    2006年から受け入れを実施する中、当初は町の教職員住宅の空きを利用して実施していたが、地域の建設業者が中心となり、体験用のモデルハウスを建設し、現在はこのモデルハウスと教職員住宅にて生活体験を受け入れている。20年度には4組・10人、21年度には7組・14人、1人が2地域居住を実践中である。
    なお、上士幌町役場の担当がワンストップ窓口として、地域情報発信、体験者の募集から選考、滞在中の生活の世話や自然体験の紹介などまで実施している。
古座川町産業振興委員会/和歌山県古座川町
  • 地域での事前学習の場を用意し、地域との人間関係・自立した生活環境をつくる
    紀伊半島の南端に位置し、渓流に沿って段々状に民家が散らばる山村である。ゆず生産、加工品の開発によりゆずの里として地域おこしが進められている。古座川町にて平成1 7年に設立された古座川町産業振興委員会では、当初産業の振興による所得の向上を主な目的としていたが、高齢者が約4 5%(H1 7国勢調査)を占める同町においては、若者などの定住者受入れも大きな課題とされ、産業振興と定住受入れを地域活性化の2本柱と定めた。定住を促進するといっても誰でも良いというわけではなく、地域との人間関係、自立した生活環境が築ける人でないと町としても積極的な支援はできない。そのため地域での事前学習の場を用意し、それを受講することを定住への近道として勧めている。また事前学習中の滞在施設として2軒、短期滞在住宅を整備し多くの人に利用されている。
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