各種取組の紹介

活力ある漁村づくりの事例

ばんや食堂〜漁協直営・「売り切れ御免」の人気レストラン〜
保田漁協(千葉県鋸南町 保田地区) 【類型1:流通・販売】

◆地区の概要

保田漁協の漁業種別水揚げ金額
(H21.9.1〜 H22. 8.31)

保田地区のある鋸南町は、東京湾口の浦賀水道に面する房総半島の南西部に位置し、豊かな漁場を有する古くから沿岸漁業の盛んな地域であるが、近年、東京湾口航路整備事業等による巨大船舶の輻輳など、東京湾内での安全な漁業が困難となっている。かつては3ヶ統あった中型まき網も廃業・休業を余儀なくされ、同時に東京湾内の開発等と海流の変化により、現在、漁獲高が年々城少している。
主な漁業は、大型定置網(漁協直営)1、刺し網36、一本釣り4、採貝14、たこつぼ10、小型定置1、中型まき網1(中断中)。
平成21年度末正組合員は106名、准組合員は108名、役員9名(理事7名、うち常勤1名、監事2名)、職員14名(うち食堂部門7名。

◆事業取組の概要

上記のような現状を踏まえ、今後販売手数料では組合経営が困難になるという危機感から、15年前から「海業」への取組みを開始、保田漁協直営の食堂事業「ばんや」を開業した。
開業の経緯は以下のとおりである。

○平成7年7月:
定置網乗組員・組合員の福利厚生事業を目的に、「魚食普及食堂」として「ばんや」をオープン。(当初は中古コンテナ2 棟スタート)
○平成12年7月:
「第2ばんや」をオープン。収容人員210名、総事業費8,150万円(漁協自己資金4,150万円)
○平成14年3月:
「第1ばんや」をオープン。収容人員132名、総事業費7,200万円(漁協全額自己資金)
○平成15年12月:
高濃度炭酸泉「ばんやの湯」をオープン。収容人員132名、総事業費1億5,000万円(漁協全額自己資金)
○平成20年4月:
「第3ばんや」をオープン。収容人員200名(団体向け、予約のみ)、総事業費1億9,525万円(自己資金9,525万円)

平成9年のアクアライン開通などもあり、首都圏からのドライブの目的地として認識され、週末のランチタイムなどは、行列ができるほどの人気となっている。人気のポイントはメニューの工夫にもあり、定置網でとれた新鮮な魚など、その日提供できるメニューを壁に張り出し、早いもの順に販売、食材がなくなり次第「売切れ」の札を貼る。これにより、人気メニューを食するためには食堂に早く着く必要があると話題になり、人気に拍車をかける一因となっている。また、食堂側としても少量の食材でも合理的に提供でき、無駄を省くことが可能となる。

◆事業実施の効果

1.水産物の高付加価値化
保田漁協の産地市場で保田漁協が入札参加。食堂部門の総売上=約832百万円。食堂部門の総仕入額=328 百万円(約2.5倍の付加価値化が実現)

2.地域の雇用拡大
食堂事業では、土・日曜に60〜70名の地元スタッフを雇用。食堂事業の総支払人件費は242百万円。
食堂事業の付加価値化は、地域の雇用と所得を支えている。

3.流通コストの省略
直接食べてもらうことができるため、流通に係わるコストの省略化を実現。

4.ロットがまとまらなくても売れるシステムの構築
ロットがまとまらない水産物も調理して食べてもらうことで販売可能。資源の無駄がない。

5.漁業経営の安定化に貢献
漁協の事業利益の67.0% を食堂部門で捻出、漁業経営を支える大きな柱を形成している。

◆成功要因の分析
項目
内容
1)活動概要 漁獲高の低迷などの危機感から、平成7年に漁協直営での第3次産業=「海業」の展開を決定。「ばんや食堂・ばんやの湯」などで8.3億円の売上げと最大70名の雇用創出を達成。漁業手数料と比べて約2.5倍の付加価値を確保。
2)活動組織の概要、他団体との連携 漁協直営事業。地域商店等との相乗効果を狙った連携は、日常的に実施している(飲料の地元仕入、満席時の地元飲食店の紹介等)。
3)人的要因 漁協組合長の強力なリーダーシップによる事業推進を図ってきた結果、組合として強力な経営力、営業力で事業を推進、効果的な効果発揮につなげている。
4)地域・漁村活性化効果 食堂という安定的な販売チャンネルを組合自身が持つことで、組合員の「とれば必ず売れる」安心感につながっている。また、海業による事業の雇用により、組合員および関係者には、漁に出なくても就業機会が提供されている。
5)実施上の問題点解決に向けて工夫した点 組合長のリーダーシップによる事業推進と、アクアラインなどの交通インフラの充実により、段階的事業展開を着実に行ってきている。
6)支援制度等の活用状況 事業立ち上げ期および拡大期において、補助事業を活用している。
7)その他の成功要因 交通アクセスの拡充に合わせて、事業規模が拡大。売り上げの増加に併せて、事業を段階的に展開。組合長のリーダーシップによる経営マネジメントの手腕が全体事業の拡大に反映されている。
8)事業取組の課題 現在建設中の冷凍冷蔵施設による食品加工業の事業展開の立ち上げ成功、定着化が課題。
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